梅雨/なまねこ
 
る音がひびく。彼女は僕の邪魔をしない。では僕は。
彼女の邪魔をしていないだろうか。僕がずらす足の擦れた音で、彼女の書く丸文字がひとつでも変わるとしたら。叫びそうになる。彼女は自分の意思で今朝もシャワーを浴び、服を着替え、朝食に何か食べ、ドレッサーに向かって化粧をして、香水を選んでここまで来たのだ。決断を繰り返して、ここに息づいている。僕がどうでもいい理由で足をずらし、その音でなにかが変わるとしたら。ベルが鳴る。
骨がきしむ。気温が高い待合室の中を、きしみが伝わっていく。僕は最後の邪魔をする。ドアを押して開いた。彼女はペンを止めていた。
対岸のホームに電車が止まっている。オレンジ色だ。この時間
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