ウイリーの風/剣屋
 
やっている。雲海のような白い排気ガスが夜霧と混じり、周囲に立ち込めた。
 キリコはシャネルのバックからごく庶民的な、朝顔と金魚の絵柄が入った団扇を取り出し、柄を握った。団扇を開始の合図のフラッグシップに見立てて、婉然とした手つきで膝下までさげる。
 二人の単車の間に割って入り、堂々と中央に立つ。キリコはさながらレースクイーンのようだ。にわかに緊張の渦となった油山の頂上でキリコの秒読みが始まる。
「三……二……一……」
 団扇をずばっと空を斬りつけるように振り上げて、
「スタート!」とピストルの発射音に似せた声を出した。
 その瞬間、二人の単車は凄まじいスピードで走り出す。テールランプが
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