ウイリーの風/剣屋
プが蛍火のように左右に揺れて光る。光は遠ざかり、二人の勝負の匂いと単車の油の匂いだけがキリコの鼻に残っていた。
二人の姿が完全に見えなくなった。再びキリコはまだら石のベンチに腰を下ろした。タンクトップの裾をわずかにまくる。団扇で、露出したすべらかな素肌に山の匂いと風を送り込んだ。
夜も深まり、人のひそやかな囁き声が疎らになっていく。次第にキリコの耳には人の声がひとつも聞こえなくなった。微風に揺れる葉のそよぐ音だけが耳に残る。キリコは夜と山の静けさに身を任せて、和やかな気分になっていた。
眼を閉じると、まぶたの裏に二人の生き生きとした横顔が鮮明によみがえる。熊と狐の闘いの行方はどうなって
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