ウイリーの風/剣屋
 
けで笑って受け流す。
「大丈夫。駐車場に車を置いてあるから。さあ、山を離れてもっと魅力的な別の場所へ行こう。そしてたっぷり楽しもう」
 そう醜い男が言うと、どうしたわけか首に回されていた腕の力が次第に弱くなった。キリコは閃いたように、今この瞬間に逃げるしかない、と感じた。全力で走ろうとした。しかし足に力を込める前に、羽交い絞めにされた。
 逃げ出すのに失敗し、怒りや勇気や希望がむら消えた。どうにか正常な思考を保つ。のっぴきならない事態に活路を開こうとキリコは思った。
 背後から醜い男が邪気を含んだ生ぬるい息をキリコの耳元に吐き、囁く。
「逃げられるって思ったのに逃げられないのって最高にい
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