ウイリーの風/剣屋
 
中人の多い天神にあるから襲うには無理がある。私は悲しかったよ。キリコさんが私のために中々一人になってくれないことにね。しかし遂にチャンスがきた。あの二人が単車で勝負するためにキリコさんから離れたのは僕にとって最大のチャンスだった。しかも深夜の誰もいなくなった山の中だ。キリコさんと私だけの山。そう二人だけの山だ。この瞬間を待っていた」
 醜い男の腐った欲望にキリコは戦慄した。日常の行動を把握されている。当然気味が悪かった。しかしもっと恐ろしかったのは、息を継がずに早口でまくしたてられたことだ。それまでの遅い話し方が突発的に早くなる変貌ぶりは異常に思えた。落差が激しすぎてひどく不快だった。粘着質なそ
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