ウイリーの風/剣屋
 
流れ出し、頬を伝い、顎の下限まで到達するとアスファルトにこぼれ落ちた。
「最高だ。キリコさんの身体に触れている。最高だ。泣いている顔は格別にそそられる」
「……あなた誰にでもこんなことをしているの?」
 感極まっている醜い男は急に落胆したような表情を見せた。
「誰にでもするわけがないだろう。キリコさんだからするんだ。私はこの瞬間を本当に待ちわびていたよ。キリコさんは滅多に一人にならないからね。朝と昼はファッションデザイン専門学校に通い、夜はあの二人と常に一緒だから全く隙がない。休日にはモデルの仕事をしているから更に隙がない。日頃夜道をつけ狙ってもキリコさんの住んでいるマンションは四六時中人
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