ウイリーの風/剣屋
 
コさんのことを一番よく知ってるよ。タウン誌のファッションモデルをやってるキリコさんだろう。毎月読んでるからな。他の雑誌もチェックしてるよ。全て欠かさずにね」
 さきほどと同じでキリコに語り聞かせるかのような話し方だ。耳の穴に、知りたくもない言葉の連なりがじわりじわりとやってくる。耳の奥深くに、おぞましい生きた動物のように蠢く男の言葉が棲みつく。おぞましい言葉はキリコの顔を陰鬱に曇らせた。
「ファンならこんなことしないで」
 醜い男は眼をぎらつかせ、口の端で卑しく笑った。
「ファンだからやってしまうんだよ、キリコさん。あなたは美しすぎる。ローカル雑誌のモデルをやっているのが嘘にしか見えない」
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