ウイリーの風/剣屋
場する虚構の道具ではない。圧倒的にリアルな、ずっしりのしかかる重量が確かに感じられる。月明かりを薄く照り返し、月と同じ色で光っている。これは紛れもなく本物の拘束具だ。
キリコは両手を意識的に凝視して、こう思った。
――嘘でしょう? 嘘でしょう? 嘘でしょう?
またこうも思った。
――どうしてアタシが? どうしてアタシが? どうしてアタシが?
背後に立つ謎の人物が、呆然とするキリコの耳元で囁く。
「無防備も無防備だな」渋みのある、冷酷な男の声である。
「あなた誰よ。やめて。誰か助けて」
「もう皆明日の仕事や学校のために家に帰っているはずだ。ここには私達以外には誰もいない」
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