笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
は強くなる。Aが「Bが歩いている」状況を経験するとき、通常、AはBの属性や歩く場所や周囲の状況もまた同時に経験する。よって、「私は歩いていた」という認識には、経験則上「私」の属性や歩く場所や周囲の状況の認識が、強く(典型的に)結合する。それに対して、例えば「洞窟は濡れていた」は、「私は歩いていた」の展開するフレームにおいては非典型的である。つまり「私は歩いていた」との結合が弱い。「私」が洞窟を目指しているような特殊な事情のない限り、「私は歩いていた」にまつわる状況として「洞窟は濡れていた」は経験されないからだ。
さて、引用部の主題は「私は歩いていた」であり、2行目の「標識のない道であった」は歩
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