笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
 
は歩く場所であり、3行目と4行目「ときに景色が/逆に流れる場所がある」は歩く場所の属性であり、5行目の「見知らぬ森」は俯瞰的に見た歩く場所である。引用部に現れる詩行は、引用部の主題の展開するフレームに典型的に収まっていて、それゆえ引用部は結束性が強く、すなわち散文性が強いといえる。
 笹野は上記の意味で散文性の強い詩を書いている。だが、笹野の詩には、単なる散文であることを拒絶する構造的特性がある。それは、書かれた詩行の連なりと、書かれざる常識的な認識、さらには書かれた詩行のパラフレーズとの対位構造である。非常識的認識である「ときに景色が/逆に流れる場所がある」、この詩行が読まれる具体的な時間経過
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