笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
 
かれたりする。だが、笹野は快活な精神状態の下でそのまま快活な詩を書いている。この直接性に笹野の詩の魅力がある。笹野の詩は肉声に似ているのだ。というのも、喜んでいる人の声は喜びの調子を帯びるといった具合に、肉声は精神状態を直接反映するからである。喜んでいる人の声は聞く人の心も喜びの方角に偏向させる。同じように、笹野の快活な詩は読む者の心をも快活にし、詩を媒介にして作者と読者の心理状態が似通ってくる。笹野の詩は、作者の詩を書く楽しみを読者に分け与えるのに最も適している。
 笹野の詩の快活さは、日常語の使用や感性の鋭さ、表現の直接性に由来する。これに対して、仮に笹野が漢語や観念語を多く使い、月並みのこ
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