笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
 

3.強いられた快活さ

今朝の電話
姉さんの声はどこか呆けた人のようだった
お父ちゃんの肺に影があるらしいんよ
大丈夫なん?
大丈夫なわけないのに間の抜けた声でわたしは聞いた
(中略)
電話を切ったとたん
ひーって変な声で泣いてしまったから
目も鼻も腫れてしまったから
もうお昼になってしまった
        (『今年の夏』より)

 詩人は詩を書くとき、軽い興奮状態になり、快活な精神状態になることが多い。だが、快活な精神状態にあるからといって快活な詩が出来上がるとは限らない。快活な精神状態のもとで重苦しい詩が書かれたり、グロテスクな詩が書かれたり、淡白な詩が書かれ
[次のページ]
戻る   Point(1)