『神戸』エッセイ6500字/アマメ庵
。
差し出された君の右手を握った。
それ以上、何も出来ない。
かつては繋いで歩いた手。
握り返す彼女は、力強かった。
顔を見ることはできず、胸元を凝視した。
その胸元が、これまでになく魅惑的に感じた。
「じゃあね」
ぼくは、もう一度繰り返す。
「うん」
ぼくは、静かに彼女の手を離し、そして背を向ける。
その瞬間から、もう涙は止められなかった。
振り返ることは出来ない。
ゆっくりと歩いた。
眼鏡をはずし、洋服の袖で何度も涙を拭う。
あとから、あとから、涙は溢れた。
※※※あとがき
このエッセイは、最後のラブレターだ。
ぼくの、感謝であり、懺悔であり
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