『神戸』エッセイ6500字/アマメ庵
 
歩いた。
何度も、歩いた道。
君の育った街。
恐らくもう、ぼくは通ることはない。
地元ではないぼくにとって、神戸の景色は君との思い出そのものだ。
君は黙って付いてくる。
しかし、これ以上、無意味だ。
駐車場までの半分ほどを行った頃、ぼくは立ち止まった。

人通りも疎らな遊歩道で、君と向き合う。
「ありがとう」
君には、こころから感謝したかった。
かつて、ぼくに好意を持ってくれたこと。
今まで、ぼくの支えになってくれたこと。
「教えてくれて、ありがとう」
悲しいことだけれど、知らずにはいられないことだった。
君にとっては、言い難かったに違いない。
「幸せになれよ」
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