『神戸』エッセイ6500字/アマメ庵
くりと歩くぼく。
彼女も、ぼくの一歩右後ろを、何も言わずに付いて来た。
しばらく歩いてから、一メートル前の空気に向かって言った。
「寒いね」
何、言っているだか。
彼女の方を見ることは出来なかった。
彼女に見つからぬよう、涙を拭った。
また、しばらく歩いて言う。
「いくつくらいの人」
「33歳」彼女は、静かに答える。
「結構離れてるね」
何も言わず歩く。
「何してる人なん」
「よう知らんけど、車関係の仕事」
そうか、ちゃんとした仕事なら良かった。
彼女を幸せに出来そうな人なら良かった。
いや、寧ろ、シャランポランな野郎なら、ブッ飛ばしに行ったのに。
いっそその方が
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