『神戸』エッセイ6500字/アマメ庵
彼女が静かに言う。
「あんな、好きな人できてん」
突風が顔面に叩きつけられた。
「えっ。そうなんや」ぼくは明らかに動揺していた。
「っていうか、もう付き合おうてる」
沈黙。
長い沈黙。
途端に、彼女の顔を静止できなくなった。
店内の天井や、ドリンクバーや、厨房のほうに視線だけきょろきょろ廻る。
周囲の話し声はフェードアウトし、食器の触れる音だけが脳内に響いた。
「そっかぁ」今度は、明らかに気落ちしていた。
手先が震えるのがわかった。
唇も震えているかも知れない。
「だから、だいちゃんの気持ちには、応えられへん」
なにも言えずにいるぼくに、彼女は厳かに宣告した。
ま
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)