月の引力/salco
してから四日も経った、NASAとのデブ
リーフィングの最中だったという。
が、船長はお喋りを好まぬ人になってしまったので確かな話は聞けない
のだ。
バックパックの圧縮酸素をシューシュー吸いながら、無音の漆黒に剥き
出しの死の世界に在って、
「何という虚無だ、こんな所に三日もいたら 俺は発狂するかもよ」
と、エリート中のエリートである屈強な軍人が考えたかは知らない。
少なくとも、
「かつてどんな皇帝も英雄ものぞめなかった場所に俺は立っている」
とだけは考えなかったに違いない。
空軍パイロットは海兵隊員と違って単細胞では務まらないし、宇宙飛行
士の頭脳ともなれば権力者などと
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