月の引力/salco
 
膣洗浄剤めく繁華の地へ赴きあるゝなる、口唇期の寿
唄らしき境界に発見せる色彩に就ては萬人の知る処である。
燃上り渦巻く彩色と形象を画布に刻み塗篭めて三年、拒絶が残響する耳
の片方を斬り落し、終には己が脳味噌の錯乱をも倦んで生を終へたが、
藝術と云ふ、紙一重びとの救護所にさへ安住を許されなかつた不適合者
の兄を物心両面で支へ続け、後追ひのやうに病没した弟テヲも、誰一人
理解せぬ兄ヸンセントの作品が今日、
多くの人間にとって、知らぬ人のないモナリザと双壁をなす存在となっ
ている事を知ればさぞや喜ぶことだろう。
モナリザの眼差しに射すくめられたように感じた者も、向日葵や麦
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