月の引力/salco
 
や麦畑に
引きずり込まれるような幻惑を覚えた者も、共に絵の前を去り難い。
けれど謎めいた相貌と背景に魅入られても、嗚咽を洩らす者はそうはお
るまい。あるいは不世出の汎用型天才・聖ダヴィンチの人物像を心に描
けば、嫌な野郎だったろうなと思う位であるのに対し、近所にこんな人
格障害・精神異常がいたら処置入院を願わずにはいられないであろうゴ
ッホには、あたかも肉親への追慕の如き胸痛を覚えるのだから勝手なも
のである。これは隔世の長短や天才の学術的差異の故ではなく、またそ
の境涯のコントラストが招来する判官贔屓でもないらしい。

その昔、
「これは小さな一歩だが、人類の偉大な一歩であ
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