going to the moon/チアーヌ
した。男の子はその中を、音ひとつ立てずにどんどん中へと入り込んで行きました。
男の子は妻戸をいくつも通り過ぎると、細殿に女たちが何人か眠っているところに出くわしました。この邸に勤める女房たちのようでした。男の子は、それらのものには目もくれず、踏み越えるようにしてさらに奥へ入って行くのでした。
そのあたりで男の子はやっと、立ち止まりました。そこは邸の最奥、けして人目についてはならない女性の居場所でした。
簾で囲まれた部屋らしきところから、薫物の香りがしてきました。それは貴婦人の香りでした。
男の子はそうっと、中へ入りました。
簾の中はさらに屏風と几帳で囲んであり、磨き立てて黒光り
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