アルフォンソ・サノヴァビッチ4世についての覚え書き/salco
 
 対価として積まされた阿呆はいるだろ
うが。君はどうだったね。いや、敢えて聞くまい」
やや狼狽した様子で枕頭の古びた哲学ノートを繰ると、これ、ここにこん
な一文を書いたのがある、と私にそのページを示してくれた。そこには几
帳面な字で――と言うのも、手の位置が高過ぎて書いている間は文面を確
認できなかったので、ペン先を左の人差指と中指の間に入れて行を導き、
同時に人差指の腹に着けた親指の爪で紙面に罫を引く。下段を進む時はそ
の罫線の溝を今度は中指の先で辿りながら続ける。だから侯爵の筆記は
点字のように緻密で整然としていた――こんなことが書きつけてあった。

『生きる間の或る期間、
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