大蛇と影を重ねて/ポッポ
 
盤に指を載せようとしたとき、舞台袖にいた発表会の関係者らしき男がそれに気づいたらしい。僕の行動が気に障ったのか、疑問を持ったような表情で僕のほうへ近づいてくる。でも、僕はピアノを弾きはじめた。
 その場にいた人々は、今日はもうその場で鳴るはずのないピアノの音に驚いたらしくて、ほぼ全員が舞台を見ている。それを横目で確認した僕は、顔には出さず、自分の内面にしか現れない仕様で嘲笑した。僕に近づこうとしていた男は、途中で足を止めている。
 このとき、僕は表現した。誰の曲でもなく、ジャンルのない、事実として?今ここにしかない演奏?を――。
 会場の人々は、この演奏を不思議そうな表情で聴いている。それは
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