消臭考/salco
い、ビクビクと耳をそばだて
ない、おいしそうな料理は初見でも大口で味わう。人によっては対象
を無慮に触りもするだろう。ただ最初に嗅ぐ時は、花の香りさえ盛大
には吸わないのではないだろうか。
物にも人にも場所にも、時期や瞬間にも固有の匂いがあり、犬より遥
かに劣る我々が、我々なりに鋭くそれを感知する。匂いの記憶。
利便に堕落した人間の感度からこれをまで奪わないで欲しいと思う。
この浅薄なシュッとひと吹きで害虫のように、親友だったずたぼろの毛
布やタオルケットの匂い、おばあちゃん家の匂いやその寝巻や布団、一
人一人違う友達の家の匂い、学校から帰った時の玄関や古畳、押入れの
匂い
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