消臭考/salco
 
過や忘却のゆえではないから、
一義的には自我、二義的に言語化が作用しているのだろうと推察する。
最も非言語的である筈の皮膚感覚はそれ自身の曖昧さ、追体験の頻度
によって日々薄まってしまう気がするが、匂いは直截な形で保存され
続けるのだ。何故なのかは知能不足でわからないが、思考以前の感情、
感情以前の感覚に強く結びついて記憶されるのかも知れない。恐らく
それは動物時代の残滓であり、生きて行くのに枢要な警戒や認知の領
域なのだろう。とすれば、忘却に埋没した過去の断片を、しばしば嗅
覚が最も鮮烈に喚起するのは当然なのだ。百獣の王となった人類の成
獣はもはや日常生活でキョトキョト見ない、
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