バーボンをロックでいただく/窓枠
 
とあるマスターはこう言った
「一時の情に流されてはいけないよ」
と 熟練の笑みを浮かべながら言っていた



手元には注いだばかりの冷えたグラス
何度目かのおかわりすら忘れれば
カチリと静寂から呼び覚まされて


私の知らない匂いのする枕がある
隣で眠っているのは記憶にない男で
いつ私の隙間につけこんできたのか

乱れた衣服にほろ苦い笑みを浮かべ
男の名前も聞かないままに
一夜限りの愛の巣にさよならをした


目覚めたばかりの太陽は冷たい
誰もが吐く息を白くするほどに
エンジンは暖をとらねば走りたがらない

口にする空気は薄っぺらく
まばらな足並み
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