高野山物語/済谷川蛍
 

 「え、何で」
 「宿命だからじゃ」
 「さだめって…」
 理不尽だった。チョウチョは爺さんが生み出したものじゃないのか?
 「可哀想だ」
 「宿命だ」
 「窓は開けない」
 「チョウは明日になれば死ぬ」
 「僕は殺したくない」
 爺さんはしばらく僕をじっと見つめて、寝た。初めて爺さんに憎悪を抱いた。
 チョウチョを探した。本棚の上の得度修了書にとまっていた。儚かった。死ぬことを知らない、か弱い存在に思えた。
 朝の冷たさで起きると、黒い机の上にチョウチョが死んでいた。羽が千切れてしまわないようにそっと手のひらに乗せた。それから外へ出て、埋めた。オ
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