高野山物語/済谷川蛍
 
てきて、すぐに帰っていった。大家は部屋のことは何も言わなかった。
 6段式の本棚の上には得度修了書、授戒修了書、理趣教加行修了書、護身法加行修了書が立て掛けられている。これら修了書が私が持つ価値あるものだ。これ以外の、アルマーニ・コレツィオーニのブルゾンも、ヘッセの著も、すべて私の趣味に過ぎない。各修了書は、私よりも、価値のあるものだ。しかし、たとえ修了書を全て失うことがあっても、私はしぶとく生き続けるだろう。結局のところ、動物も虫も植物も人間も、生物すべては生きることしかできないのだから。

 ベッドの上で煙草を吸いながら念珠をもてあそんでいた。学校に行く途中、見つけたものだ。忍びない
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