桃色ラビッシュそして清潔な朝日/ソノタ
て傷つけられたのだろう。また傷つけたのだろう。ただ、彼を傷つけたであろうその猫を憎む気持ちはこれっぽっちも湧かなかった。所詮-といってはかなり語弊があるが-猫の世界のことなのだ。そして、わたしは彼が猫であることをよく知っていた。いっしょに暮らしてはいたが、彼が猫の本分をまったく失っていなかったこと、猫の世界で生きていたことに気付かされ、その野性に対して敬いのような不思議な感情が湧いた。
つきっきりで看た。家族みんなで、もう動けなくなっている彼のおむつを替え、口に水を含ませ、「また元のように元気になるよね」とは誰も言えずに、でも、それだけを信じて。みんなやけに陽気だった。その陽気さを失くしたと
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