【批評祭参加作品】つめたくひかる、2?江國香織『すいかの匂い』/ことこ
 
短編集である。そのことと、「つめたい」が精神的に不安定な場面で用いられていることは、『すいかの匂い』の各話を構成する上で、非常に重要な位置を占めている。
 ここで、「つめたい」の出てこなかった3話のうちの2話で、挙げておきたい場面がある。


 数人の客が降り、女はいちばん最後に――しかしいちばんきっぱりした足どりで――ホームに降りた。ふりむいて、さあ、というように私を見る。
 私は一歩も動けなかった。
 キオスクに、袋に入った冷凍みかんが並んでいるのが見えた。公衆電話が見え、銀色の大きなごみ箱も見えたけれど、私は一歩も動けなかった。
(「あげは蝶」)


 これは、
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