【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
 
引きずりこもうと画策しているのかもしれない。



 ここまで見てきたように、道に迷うことは宙吊りになって前にも後にも行けない状態のことだ。そして多くの場合、人は目的を持って道を歩くだろうということも確かなことだ。それならば、そのように宙吊りになって方向がわからなくなって止まってしまうのを誰もが避けたいと思うはずだ。だがここに、奇妙なことにと言うべきか、目的を持たずに歩く人がいる。それもほんの時々ではなく、頻繁にそのような者が出現する。たとえば散歩であるとか、あるいは目的地を持たない風まかせの旅であるとかがそうだ。なぜ人はこのような歩行の跡を道の上に記してしまうのか。それはまるで、積極
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