【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
 
積極的に迷おうとしているように見えるほどだ。
 おそらくここには、知性を持つ者としての人間の特性が反映されている。歩行とは、自らの脚を使って身体を前へ進ませることだ。その動作自体が、きわめて実用的なのだということが言える。しかし、実用だけで済まないのが知性というものの始末の悪さなのだ。どこかに無駄なものを求めてしまうのが人間の常であり、無駄の探求によって生活を潤してきたのが人間の歴史なのだと言える。
 明確な目的地を持って始まる歩行へのある種のカウンターとして、目的を持たない歩行というものはある。一九六〇年代に世界中の若者たちの間でヒッチハイクによる貧乏旅行が盛んに行われたことがあったが、あれ
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