【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
 
にあるのだが、それをあたかも混沌の中にすべて投げこまれてしまったように感じるのは、人がいかに日頃秩序とともに生き秩序に守られて暮らしているかということを示している。秩序に少しではあるが混沌が侵入することで、まだ秩序は大筋で保たれているのにもかかわらず、それが完全に破壊されてしまったかのように思えるのだ。これは見方を変えれば、混沌の方で人を騙しているとも言える。混沌の力はまだ完全に発揮されていないのであるが、秩序に慣れた人間はわずかの混沌の侵入でも敏感に感じ取って、混沌の力に完全に捉えられてしまうかのように錯覚する。そうした混沌に慣れていない人間の混沌を恐れる性質を利用して、「あちら側」の世界に引き
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