【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
あれなどは非常にわかりやすい実用的人生へのカウンターだった。「自分探し」などと言うと何やら嘘くさく響いてしまうが、要するに日常を覆っている実用性や散文性だけではない別の可能性を探っての試みであり、そういう方面から見るならば、人としてきわめてまっとうな行為だったのだと言える。そのような大がかりなものでなくても、たとえば通勤の道のりをいつもと変えてみるとか、一番近く一番安く行ける道のりをあえて選ばずに遠回りしてみるとか、休み時間に散歩をしてみるとか、実用的で散文的な歩行から離れた韻文的歩行が日常のあらゆる場面で試みられている。そのような非実用的で非生産的でいっけん何の役にも立たない行為こそが、実は人の
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