【批評祭参加作品】日々のひび割れ −石川敬大『ある晩秋の週末のすごし方が女のおねだりで決まる』評−/大村 浩一
させている。
第1連に進んでみよう。
# どこかの紅葉を買いにゆこう
# と、女がいった
# 言葉に
# ぼくはまったくピンとこなかった
最初、「どこかの紅茶を」と誤読していた。疲れ目で時間に追われて批評な
どするものではない(笑)と思ったが、確かにピンと来ない言葉だ。「どこか
の」という言い方にはどこか投げやりで逃避の印象がある。意欲的な人間なら
「何々渓谷の紅葉がいま見ごろだから」とか具体性を帯びた提案が出てくるも
のだろうから。
しかも紅葉を見るとは自然を愛でる行為であって、カネで買うものではない。
それを「買いに」とは、けっこう不遜なイヤミな言われ方で
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