【批評祭参加作品】日々のひび割れ −石川敬大『ある晩秋の週末のすごし方が女のおねだりで決まる』評−/大村 浩一
 

 と、女がいった
 言葉に
 ぼくはまったくピンとこなかった

 二歳にもならない
 愛犬ミルクは車に弱い
 夕方は早く暗くなるので留守番では
 可哀想すぎる
 ぼくの
 こころの足もとが躓くのは
 その一点においてなのだが
 とても軽視できない一点でもあって
 だ、けれど
 女が
 こんな風にきりだしてくるのは滅多にないことで
 そのことだけは確かで
 家事の疲れが滞留しているのかしらん
 と、溜まった水槽の堆積を思う
 ぼくだった

 愛犬ミルクと女と究極の選択になれば
 泣く泣く
 ぼくは女をとるだろう

 あしたの予定は
 これでもう
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