凪が終わる時/within
洞穴の奥から聞こえてくる波の満ち干きの音のような声だった。
「君は大事なものを失っているね」
道人は苛ついた。
「どいてくれないと出れないんですけど」
男の目を見た。男の目元は目脂で汚れていた。
「君が欲しがっても、いくら欲しいといっても、君には手が届かない。資格のあるなしでいえば、君にも資格があるかもしれないが、残念ながら皆待ってくれない。君が辿り着く前に世界は終わってしまう」
傘を差した男は動く気配がなかった。仕方なく道人は、店の中に戻り、店員に男のことを告げ、男性店員とともに自転車置き場に戻った。店員が
「あんた何してんの? お客さんが迷惑してるから、ここから立ち去ってくれ
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