凪が終わる時/within
男が見えた。自転車で近付いてよく見ると、男は初老で白い髭を生やしており、青いパジャマの上下にモスグリーンのジャンパーを着て、紺色の傘を差していた。その異様な風体に、道人は目を合わせぬよう自転車を漕ぐ足に力を込めた。
道人は、できる限り早く帰りギターに触れたい一心で、スーパーの中を早歩きで、さっさと頼まれた物をカゴに入れ、レジを済ませた。自動扉を出て、自転車置き場を見ると、先程、道路の真ん中で立っていた傘を差した男が道人の自転車の前で立っていた。ああ、面倒だ、と思いつつ、男を無視して自転車のカゴに買い物袋を入れ、男に言った。
「ちょっとどいてくれませんか」
そうすると男が口を開いた。深い洞穴
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