凪が終わる時/within
 
ると道人は何も言えなかった。
「もちろんその分のお金を今すぐ返してくれるいうんなら別やけど」
道人はギターを置いて立ち上がった。
「わかった、行くわ、行ってくればええんやろ。その代わり、俺が行っとる間に部屋に入らんといてよ」
「ふん。じゃあ、しょう油と大根を頼むわ」
 と母は千円札を渡した。

傾きかけた太陽を背後に、スーパーへ向かう川沿いの道を自転車で走っていた。もう一日の仕事も終わりかけ、解放される期待にあふれながらも疲れを隠せない車の中の大人達の顔は、道人の目には死んでいるように見えた。その時、耳をつんざくようなクラクションの音が響いた。車の陰から道の真ん中で傘を差している男が
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