凪が終わる時/within
に自分の自転車に近付いていくと、原野が歩み寄ってきた。
「なあ、千円貸してくれや」
道人の心は寒さと怯えで小さくしぼみ、小刻みに震えていた。
「持っとらん」
と白い呼気を吐き出しながら、原野の前で立ちすくんだ。すると岡沢が
「知っとんやぞ。お前がようけ金持っとるって」
と自転車を降りて道人に近付き、覆いかぶさるように腕を回し
「俺にもちょっとくらい貸してくれてもええやろが。ちゃんと返すいよんやぞ」
と口角を上げた。煙草のにおいがした。
道人は岡沢の腕を振り払おうとしたが、腕力では岡沢に敵わなかった。
「な、一万でええきん、俺タチ友達やが」
「そんなに持っとるわけないが」
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