ガーベラさん/瀬崎 虎彦
 
顔をしていなかった自信がない。
「この花束はね、僕にとってのお守りみたいなものなんです。これがないと、授業がうまく出来ない、という」
 そういってガーベラさんは左手に提げた花束に目をやった。


 僕はとても緊張する性質なんです。教壇に上がって学生さんの顔をまともに見ることも出来ない、そんな時期もありました。口では必死に何かを説明しているのだけれど、自分の話しているその声がどこか遠くから響いているようにさえ聞こえる。それくらい緊張していた。当然学生さんからの受けも良くありませんでした。一方的に漫然と話している、と思われていたでしょうね。もちろんそれで済めばいいですが、興味を惹かれない
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