宇宙というインストゥルメンタル、あるいは逆再生された無音/robart
 
くなる。」循環についての考察。
「ふぅん。」彼女はコーヒーカップの取っ手をそっとつまみ、ゆっくりとカップを回した。カップの中に半分ほど残っていたコーヒーが揺れて小さな波ができた。波は渦のようなものを一瞬つくったが、すぐに元に戻った。彼女は、何か大事なものが欠けている、とでも言いたげな表情だった。少なくとも私の目にはそう映った。ものごとの都合上どうしても割愛しなければならなかったが、実はその部分こそが核心だったのではないか。新潮文庫の『サキ短編集』に「スレドニ・ヴァシュター」が入っていないように。彼女の薄く直線的に描かれた眉や、淡いピンク色の唇までもがそんな風なことをほのめかしているように思えた。
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