12月のボーイズラブ特集 副題:知と愛の接触/済谷川蛍
 
県内でもなかなか名の知れた進学校ではあるが、別に東大や早稲田なんかに行くわけではなく、地元国立に入学できれば万々歳だ。それにしてもこの無垢な愛らしさ。このコはモテるだろうな、と思った。
 「なんだかせつないなァ」
 わたしは苦笑した。手紙には皺一つ付けなかった。おそるおそる手紙を封筒に収め、それを本棚に置かれたヘルマン・ヘッセの『車輪の下に』の文庫本の間に挟んだ。わたしは彼の家のほうを眺めた。壁を越え、空想だけが彼の家に辿り着き、彼の部屋や彼の様子を水晶玉に映したかのように見る。わたしは思わず枕を抱きしめた。

 朝になって、支度をして家を出た。当然彼の姿は無かった。いつもより早く家
[次のページ]
戻る   Point(1)