口髭で人はノロけられるのか/robart
あげ、ロールアップしたシャツの袖を元に戻した。クーラーの機械的な涼しさはどうしても好きになれない。
「今読んで!今から読みにいこう。わたしの家にあるから。モーパッサンの短編集!」彼女は飲み終わったグラスの氷を口に含んでから、脱いであった薄手の七分袖パーカーを着て立ち上がった。先ほどの初老の男性(の口髭)を眼に焼きつけながら、僕をせかす。
僕はしかたなく立ち上がり、時計を見る。3時半。(つまり一番暑くなる時間だ。)
「It's funky モーパッサン。能書はもうたくさん。」僕は小声で歌う。自動ドアをくぐり抜け、外に出た瞬間皮膚の感覚がおかしくなる。一気に気温が10度近く変わるのだ。眼鏡が少し
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