冬の博物館の前で(Another Side)/robart
 
があって、それから主体が行為して、その結果、言説が生まれると思っている。」日常会話で使わないような言葉ばかりが出てくるので、なるべくゆっくりと話したつもりだったが、彼女はよくわからない、といった顔をして眼を数回しばたいた。あるいは、コンタクトが乾いたのかもしれない。
「簡単にいうと、私たちは、自分が見たり聴いたり感じたりして物事を把握していると思っている。」彼女は何も言わずうなずいた。
「たとえば私たちは犬の鳴き声をワンワンだと思っている。」
彼女はワンワン、と小声で吠えた。
「それは犬が吠えるのを自分の耳が聞き取って、それがワンワンに聞こえたから、犬の鳴き声はワンワンだと私たちは考えてい
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