冬の博物館の前で(Another Side)/robart
ている。」
ワンワン、と彼女は同意した。
「でも実はそうじゃない、とアルチュセールは言った。先に存在したのはワンワンなんだ。」
「先に存在したのは、ワンワンなのだ。」と彼女は何か重大な申告をするような口調で言った。それから手に持っていたタバコを紙コップの中へ放り込んだ。
「私たちは生まれたときから親から、大人たちから、あるいは絵本やアニメなどから犬の鳴き声がワンワンだ、という一種の言説を叩き込まれている。アルチュセールは、主体よりも言説が先立っていることを示した。彼の言葉を借りるなら、主体とは言説と行為の繰り返しから生じたワインの澱のようなものだということになる。」
「つまり、犬が吠える
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