どこかにあるかもしれないもうひとつ別の7月4日/robart
では、世界の構成ががらりと変わっているかもしれないような音だった。まったく同じ材料、まったく同じ分量、まったく同じ手順でまったく同じ時間をかけてもうひとつの世界を作り出したはずなのに、まったく違う世界ができてしまったかのような響きがその音にはあった。
男は手首から手錠を外した。手錠はテーブルに置き、男はスーツケースの中央にある上蓋を外し、内蔵された電卓のような数字盤に暗証番号を打ち込んでいった。暗証番号は恐ろしく長かった。100桁近くあったかもしれない。しかし男は一度も指を迷わせることなく、同じペースで淡々と数字を入力していった。その間も、博士はじっと外を見ていた。
ピーという機械音が続けざま
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