どこかにあるかもしれないもうひとつ別の7月4日/robart
 
博士。」
ドアをノックするのとほとんど同時に、男が部屋に入ってきた。軍服姿の上背のある男は、右手に持った銀色のスーツケースを部屋の中央のテーブルにそっと置いた。男の右腕の手首は、スーツケースと手錠で繋がっている。博士はアームチェアに深く腰掛け、シルクのカーテンがそっと揺れる窓から外を見ていた。
「博士、鍵を。」
男の声はその体格に相応しく、太く低かった。博士は姿勢を崩さず、なにかぼそぼそとつぶやいた。すると数ミリほどの手錠の鍵穴から、カチリという音がした。静寂の中でならなんとか聞き取れそうなほどの小さい音だった。しかしその音にはなにか途方もない意味があるように思われた。鍵が外れる前と後とでは
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