「落陽」(1/3)/月乃助
 
り始めた二人は、車がやっと一台通れるほどの細い道を、丘の頂上を目指して歩いている。
 丘には、今は使われていない昔の気象台がぽつんと一つ残っている。白いドームを頂いたその姿は、地中海の旅行パンフレットに載っていそうな、ギリシャの白壁の家を思い起こさせた。
 その丘は、この町に来た当時、娘がたまたま知り合いに教えてもらった所で、この町のガイド・ブックなどにも載っていない場所だった。夏、初めてそこから見た景色を娘は今でも忘れられない。古い屋敷だらけの閑静な町、留学に来た町についてはそんなイメージしか知らずにいたのに、こんな爽快な景観が見られる丘もあるんだとその景色を前にし娘は胸を打たれた。
 青
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