「落陽」(1/3)/月乃助
マロニエの街路樹が黄葉に色付き、小ぬか雨が毎日のように降り始めると、もう秋冷の季節がやってきていた。
まとわり付くような秋雨の中、娘ははダウンタウンで彼と落ち合うと、一緒に通っている大学からのバスを乗り継ぎ、海岸線の住宅街まで遊びに来た。
そこは、歴史を感じさせるビクトリア朝の屋敷をところどころに目にする、そんな閑静な町並みだった。
娘は今日のために彼に食べさせてあげようと家でパンプキンのクッキーを焼いてきた。それは今も、娘のバッグの中で時折かさかさと音を立てている。
ここへ来たいと言い出したのは娘の方で、彼はそこが町のどのあたりになるのかも知らずにいた。
今、急な坂を登り始
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