「波の声をきいて」(13)/月乃助
北の国は夏の日が長く、まだ、夜の八時をまわっても日がある。
カバンの紐を両側から二人で持って、持ち上げた。ずっしりとした重さが掌にあった。少し歩いては休みながら、Sayoは一人でPenneを背負って部屋に連れてきた日のことを思い出していた。あの時も、確か夕方だった。
古い屋敷の多い住宅街の緑の庭を見ながら、海岸線の磯浜のあるところまでPenneを連れて行った。そこは、海岸に沿って走る遊歩道がありそこから階段で下りて行ける小さな浜で、夕暮れの寂しさを増すようにもう人影はなかった。
海峡からの夜へ向かう冷たい潮風が、波と一緒にやってきていた。
Penneは、久し振りの潮の香りに鞄
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